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これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。

r-lib | 丹原健翔 - エリート層と『EXILE問題』

GENRESArrow教育

エリート層と『EXILE問題』

Written by Kensho Tambara



ことの発端は昨年、俗に意識が高いといわれる大学生たちと渋谷のカラオケに行って一晩中歌ったとき。

中島みゆきからAKB48、サザンオールスターズからONE OK ROCKと、様々な人気アーティストの歌をみんなで歌っていたところで気づいたのだが、誰もEXILEを歌わない。もちろんみんなEXILEを知っているし、なんなら三代目 J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I.」のあの特徴ある踊りだってカラオケ来る前にみんなでバカ騒ぎしてやったじゃない。でもやっぱり歌わない。

その場で調べてみれば、J Soul Brothers from EXILE TRIBEは2015年上半期総売上は56.3億円(2016年は上半期総売上で76.9億円)を記録して1位 (http://www.oricon.co.jp/news/2073849/full/)。EXILEについて言えば2007年から22曲連続シングルでオリコン1位か2位を取っている。

僕もEXILEは特に好きじゃないからいれないわけだけど、6時間歌っていろんなアーティストが出たのにも関わらず国民的グループEXILE(またはEXILE系のグループ)の曲が一度も出ないことは少し懸念するべきことなのかもしれないと思った。

だって、こういった国民的な人気ととれる売上結果から考えるに、まわりにEXILEのファンがいておかしくないが、僕のまわりでEXILE系のグループのファンだと公言している人は一人もいない。僕は顔が広い方だと思ってるけど、世の中にたくさんいるはずのEXILE系グループのファンは一体どこにいるのかわからない。

マーケティングアナリストの原田曜平が定義したいわゆるマイルドヤンキーという「比較的低所得・低学歴で郊外に住む人口の15%ほどの層」の特徴として、特に男性の間でEXILEが人気、とされているが、この仮説にもとづいて言えば、僕はこういったマイルドヤンキー層の人を知らずに日本で暮らしていることになってしまう。

気になってまわりの知り合いに聞いてみたら、やはり彼らもEXILEを好きな人をあまり知らない。つまり僕は年齢や職業、出身など様々な人と出会って来たつもりだが人口の15%ほどとちゃんと向き合ったことがないことになってしまうし、また僕の知り合いも同様、そういった社会層と接点がない。

考えてみれば僕は進学校を卒業し、海外の大学に行き、いわゆる一流大学とされるMARCH以上の学生や美大生とこれまで多く接してきていて、結果として、知らぬ間に一流大学層に囲まれたバブルの中から日本を見ていた気がする。そんな偏った視界から見える社会を元に政治がうんぬんとか、社会のトレンドがうんぬんと語っていたことになる。

これは由々しき事態だ。これが僕が最近悩む問題。名付けて、『EXILE問題』。

もちろん日本全国のあらゆる人間を知らないと気がすまないとかそういった話ではなく、社会をちゃんと把握する必要があるという話。

一流大学層、言い換えればエリート層の恵まれた人々は意識が高く、社会問題について真面目に向き合っていたり、官僚や専門職について社会貢献をする人も多い。そういったことが普通とされるコミュニティと、マイルドヤンキー含め僕たちの知らないコミュニティの間には遠い距離があって、それを認めないどころか認識さえしていない人たちが、日本のためにどうだこうだって論じるのっておかしくないか。

『EXILE問題』はつい最近、ちがう形で経験した。2016年の米国の大統領選挙をハーバード大学の寮で見たのだが、数百人といるその部屋の中でトランプ支持者は一人もいなく、あるいはいても決して公言できない緊張感がその部屋にあった。

トランプが当選した次の日、授業に行くと90分の授業の半分は「今日から私たちは今まで以上に頑張ってアメリカを良くしていかなくてはいけないのだ」「これからは若い人たちがなんとかしないといけない時代だ」などと言った、教育学とは関係のない話だった。

大学ではみんな顔をそろえて言うのだ。「こんなめちゃくちゃな結果になるアメリカはとうとう終わった」と。

いやでも待ってほしい、めちゃくちゃな結果だと思っているのって君たちだけでしょ。同じように、「まわりはトランプ支持者しかいない、ヒラリー・クリントンを支持するなんて考えられない」って言ってる人たちは郊外に行けば本当にたくさんいる。

最近はフェイスブックでニュースを読むことが増えているが、友達がシェアした記事や、それに類似したものしかタイムラインに現れないフェイスブックのアルゴリズムによって、僕たちは気づかないうちに情報のガラパゴスに陥っていて、つい、「ほら、トランプがどれだけ最低か訴える記事がこんなにあるのに、それでもトランプを支持するやつはバカだ」なんて思うわけ。

でもトランプ支持者はそもそもフェイスブック通してワシントン・ポストとか読まないし、フェイスブックで記事を読む人でもまわりのトランプ支持者とともにヒラリーを批判する記事ばっか読んでる。

アメリカの問題はトランプが当選したことでも若者が選挙に参加しないことでもなく、社会にとって何が一番いいかわかってるつもりになっているエリート層が気づかないうちにバブルに内包されてお互いの傷の舐めあいみたいなことをして現実を見れていないことだ。

ノイジーマイノリティの対義語としてサイレントマジョリティというものがあるが、マジョリティは物を言わないわけではなく、ノイジーマイノリティがうるさすぎてそれが聞こえないだけなんじゃないか、という話。

振り返ってみれば2014年、家入一真さんが都知事選に出馬した際、やはり僕のフェイスブックは家入さんを応援する投稿が圧倒的に多く、本当に当選するじゃないかとさえ思ったが、ふたを開けてみれば当選からはえらく遠いところに結果はあって、情報がソーシャルメディアでアクセスしやすくなった一方、こうやってマジョリティが聞こえなくなるのか、と反省したばかりだった。

話を戻すと、エリート層の中に『EXILE問題』があるように、EXILEファンたちからしたら『岡村靖幸問題』とか『オザケン問題』とかがあるんだと思う。つまり双方向のディスコミュニケーション、社会の二分化が起きていて、こればかりはなんともできない。資本主義とはそういうことだと思う。

でもなぜこの問題を今回とりあげたかというと、『EXILE問題』の本質はエリート層としての責任だと思うから。育ちが良くて当たり前のようにMARCH以上の大学に入って、当然商社や広告代理店、外資系などを狙って、将来は何らかの形で社会のリーダーになる可能性が比較的高いエリート層の人たち。

社会の全部が見えていないリーダーなんて怖いったらありゃしない。それぐらいちゃんとしてよ。つまりそういう話なんだと思う。

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