ー 凄いノリというか勢いですね(笑)。そのミスコン出場者の中で最年少の女性シーダに焦点をあてたのは、もともと狙ってたんですか?
いえ、南スーダンに到着するまで、出場者についての情報は一切ありませんでしたから。ミスコン予選の前日に、参加者全員15名とお会いする事が出来て、とりあえず片っ端からお話を聞いていきました。
シーダにフォーカスしたいと思ったのは、このミスコンの参加理由にとても強い思いを持っていたからなんです。シーダは、まだ18歳だけど、兄弟を内戦で亡くすなど、深い傷をおっていたんです。それでも彼女は、自分よりも更に下の子供達の事を考えていて、10歳前後のストリートチルドレンがこの国には多すぎると憤慨していたんですね。あのNHK社内報で読んだ「国づくりの一翼を担う気概」という言葉が、頭をよぎりました。せっかく新しい国が出来たのに、これじゃいけない、それを変えたいっていう強い意志があったんです。他の女性の中には、モデルとして活躍出来れば南スーダンでもケニアでもどっちでもいいかなって考える人もいる中で、彼女だけはこの国でやりたい、この国を絶対いい国にしてやるっていう熱意がありました。撮影も打診してみると、快くOKしていただけました。
でも、シーダについていこうと決めた途端、マラリアになって休んだり、宿題すっぽかしたり、倒れたりして(笑)。何度も、途中でミスコン辞めるって言い出しやしないか、ギブアップしちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしました。シーダにギブアップされたら、この番組成り立たないなって(笑)。
視聴率を考え出すと、社会の中の埋もれてる声っていうのは、なかなか目が行き届かなくなってくる
ー 凄くトラブル続きでしたもんね(笑)。他の子も追いかけたりしてリスクヘッジかけてなかったんですか?
かけてない!!もう1本勝負で。1点突破で。いや~「もうミスコンやめます。テレビの撮影も辞めて下さい」って言われたらどうしようかなぁって思ってたんですけど、なんとか最後までステージに立ち続けてくれて、色んな意味でほっとしました。僕たちの心配をよそに、彼女は、本当に強かった。
シーダはサッカーが大好きな元気な女性
ー 凄い賭けだったんですね(笑)!!でもそれだけ彼女に絞っていこうと思わせる何かがあったってことですよね。この人を追いかけようとか、このテーマを追いかけようって思う基準って何かあるんですか?視聴率のために人が見たいものを見せるのが民放で、NHKは伝えたいものや知らないといけないものを自分から発信できるっていうことを、聞いたことがあります。視聴率に縛られずに発信できるというのを聞いて、凄く魅力的だなって思った記憶があるんです。
それはあるかもしれませんね。特に僕が所属しているのは文化・福祉番組部という部署で、福祉っていう言葉が入っている通り、この部署は社会のマイノリティの声を届けるっていうことを一つの大きな使命にしています。視聴率を考え出すと、社会の中の埋もれてる声っていうのは、なかなか目が行き届かなくなってくると思うんです。視聴率が多少悪くても、そういう声なき声をしっかり届けていこうっていうのが、この部署の50%くらいの存在意義だと思っています。僕は福祉番組ではなく海外紀行番組チームにいますけど、それでもやっぱり日本の皆さんにはなかなか届かない声を丁寧に拾い上げていこう、丁寧に見ていこうって事は常に意識しています。
航海士「ポ」に 秘伝の「星の航海術」を教わる。
旅人アリッサ・ウーテンの明るいキャラクターのおかげで島のひとたちも協力的!!
一人を追いかけていく事で、背景や時代が透けて見えてくる
ー 企画を提案していく中で何かこだわってる事ってあるんですか?マイノリティとおっしゃいましたけど、そういうテーマで探してるんですか?
話の「主語が何になるか」っていうのをいつも気にしていますね。というのも、多くのニュースって「主語が何か」と考えてみると、大きな企業や国、組織がこうしましたっていう視点になっていることが多いと思うんです。でも僕はやっぱり一個人一市民っていう人を主語にして、いろんなものを見ていきたいなって思っています。内戦が起こって「難民が」何万人発生しました。どこどこの「国は」軍隊を派遣しました。「国連は」こうしました。そういう話が多いですよね。もちろんそれも重要なのですが、僕がドキュメンタリーでいろんなストーリーを作っていく中で魅力を感じるのは、そこの中にいるある特定の一人の人間なんです。その一人を追いかけていく事で、背景や時代が透けて見えてくるように、常に意識してこれまでやってきました。
あとは、遠くで起こってる事を近くに感じてもらいたいっていうのも心がけてやってますね。やっぱり遠くで起こってる事って、どんなに人が亡くなって辛い思いをされる方がたくさんいらっしゃっても、なかなかその人の気持ちに寄り添うことって難しいと思うんですよね。それを橋渡ししたり、関心を持ってもらえるような呼び水になるっていうのが僕らの重要な使命だと思っています。だから遠くの出来事を近くに感じてもらえるような演出やテーマ設定、撮影方法を心がけて作っています。
ー 凄く素敵な理念を持って番組作りをされているんですね。ところで、番組作りってとても大変だと思うのですが、やりがいを感じる瞬間ってどういう時なんですか?
やりがいを感じる瞬間は、「番組を観て何か行動してみようと思いました」「番組を観てちょっと考え方が変わりました」とかそういう声がツイッター等を見てると時々あるんですよね。そういう投稿を見た時はとても嬉しいですね。多分僕みたいなドキュメンタリーチームにいる人だけじゃなくて、ニュースセクションやドラマセクションにいる人も、観てる人の心を少しでも動かしたいっていう目標があると思うんですね。だからそれを実感できた時の嬉しさって共通のやりがいになってるんじゃないかなと思います。