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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 014
KENTA KOUTA
November 30, 2014

r-lib | 蔭山 浩美 × 健太 康太 乗っかってみたらどこかに感動はある

GENRESArrow文化

乗っかってみたらどこかに感動はある

被災地の中学校で生徒に歌ってくれと頼まれた時に、最初は逃げ出したくなったという健太康太。しかし、校長先生の一言で歌うことに決めた。今ではあの時歌って本当に良かったと思っている。

Reported by Hiromi Kageyama


ー 地震の日だったんですね。

[康太]そうなんです。福岡の実家に帰ってからは、ずっと家族に土産話をしていたからテレビも見てなくて地震のことは全く知らなかったんです。でも千葉のいとこから安否を知らせる電話があって、何事かとすぐにテレビつけたら津波の映像ばかりで。画面の右下では、ずっと日本列島が赤く点滅しているし、どのチャンネルをみても地震のニュースだし、もうあの瞬間から一切、自分がNYに行っていたことなんか忘れてしまっていました。プロになりたいって思ってNYで歌って日本に帰って来て、さぁこれからって時だったけど、地震で東北の惨状を見たら音楽とか全部忘れてしまったなぁ。それからはもうずっとテレビにかじりついているような生活でした。そんな中、1つきっかけになるニュースがあって。津波で取り残されていたおじいさんのニュースなんだけど知ってる?




ー それ、見たことあるかもしれないです。

[康太]おじいさん(と犬?)が、津波で家ごと流されて漂流してしまったというニュースだったんだけど、テレビでそのおじいさんが救出された様子を見た時にすごい勇気を貰ったんですよね。おじいさんは救助が来るまでの数日間、誰にも助けてもらえずに、きっと寂しかっただろうし、つらかっただろうし、憤りも感じたと思う。でもそのおじいさんは救助されて報道陣に囲まれた時、「怖かった」とか「なんでもっと早く助けてくれなかったんだ?!」っていう言葉じゃなくて、すごい笑顔で「また再建しましょう」って言ったんです。とっても疲れてるだろうに、恨みごとを言うんでもなく、めちゃくちゃ笑顔で「大丈夫です、また再建しましょう」って。それを聞いたときに、このおじいさんすごいなって思ったんですよね。その時から、俺らにできることって何だろう、何かないかなって考えるようになりました。
 そしたらやっぱり、俺らには歌しかないって思ったんですよ。実際、俺らが夢もなんもない時に希望をくれたのは歌だったから。それで、ちょうどその時ラジオから流れて来た宇多田ヒカルさんの『First love』にピンと来て、同じコード進行を使って『悲しみ消えるまで』という復興ソングを作ったんです。まだCDとか作る力とかもなかったのでYouTubeにあげたのが3月20日。


ー あっちょうどいいタイミングでBGMが!!(取材場所のカフェで流れていたBGMが偶然『悲しみ消えるまで』に変わる)

[康太]震災直後、いろんなアーティストさんがYouTubeに復興支援ソングをアップしていたんです。いっぱしの歌手を気取ったわけじゃないけど、俺らも『悲しみ消えるまで』をアップしました。でも、アップしてすぐ悩んだんですよ。もしかしてこうやって気軽に歌をネットに上げることが、誰かを傷つけたりするんじゃないかって。



東北の人のために何かしようとしてるのに、目の前の人を苦しめてしまった。


ー そうですよね。そういう時期だからこそ、ささいなことも気になりますよね。こう見られるんじゃないかなとか、こう思われたらいやだなとか、いろんな想いが邪魔をするというか。

[康太]で、そんなことをいろいろ考えて、結局アップして2時間後には削除したんです。


ー 戦ったんですね。上げたいけど、今はやっぱり違うみたいな。

[康太]うん、傷つけるものになってしまったら一番嫌だから。でも、YouTubeの動画は削除しても、被災地の人たちのために何かしたいなって思いは消えなかったんです。それで福岡でチャリティーライブを主催することになりました。ただ募金してください、っていうんじゃなくて、来てくれた人に何か得して帰ってほしいなって想いがあったから、入場料は1,000円にしてそれはそのまま募金箱へ入るけど、お客さんは非売品のフィギュアが貰えるっていうライブを開催しました。でも会場代ってやっぱり結構なお金がかかるんですよね。だからライブハウスのオーナーに交渉しにいったんですよ、「チャリティーライブやるからちょっと安くしてくれませんか」って。そしたらね、元々すごく仲のいいオーナーだったんだけどブチ切れられたの。「ここは元々最低限のお金でやってるのに、最近は全部がチャリティーライブで困る。もちろん最初のほうは喜んで場所代安くしてあげてたけど、もう震災から何ヶ月も経ってるし、毎月赤字じゃこれ以上やっていけない」って。その時、チャリティーやボランティアって簡単じゃないなって思ったんですよね。東北の人のために何かしようとしてるのに、目の前の人を苦しめてしまった。一体何が正しいんだろうってわからなくなった時がありましたね。
 それから東京の方に引っ越して来たんだけど、夏ぐらいにメールが来たんです。YouTubeにたった2時間しかあげていなかったあの『悲しみ消えるまで』の動画を見たという方でした。静岡で復興支援団体を率いている方で、「YouTubeでみたこの歌を是非自分たちのテーマソングにしたい」と言ってくださったんです。


ー それ、すごいですね。迷って上げて2時間で消してしまったのにちゃんと見ている人がいたんですね。

[康太]その方もまさかの双子でご縁を感じたんですが、彼らは地震が起きたその日の夜に、静岡中から集めた支援物資で自分の会社のトラック4台をパンパンにして東北に届けたんですよ。結局現地に入れたのは13日とかだったらしいんですが、道なき道を行って支援物資を配って、4台のトラックを空にして。そして帰りには福島の郡山に行って野菜を買ってお金を落として、空になったトラックに詰めて静岡でたたき売りをするっていうのをずっと繰り返していたそうなんです。そんな人たちが俺らの曲をテーマソングにしたいと言ってくれて、何てありがたいんだろうって思いました。でもその時、俺らの音楽が力になったなら嬉しいけれど、これだけじゃダメだなとも思ったんです。歌を作るだけじゃなくて何かをしたかった。俺らは体が大きいから力もあるし、重いもの運ぶだけでもいいから一緒についていきたいですと頼んで、そして東北へ同行することになったんです。


ー 東北に行かれたのはいつごろだったんですか?

[康太]11月の2、3日ですね。メールがあって半年後とかです。それで実際東北に行ったんですが、東北道を走っているときは、本当に地震が起きたんかなって思うくらい穏やかな感じでした。でも気仙沼の近くのインターで降りて、トンネルを2つ抜けたらテレビ通りの光景で。車は山に刺さりまくっているし本当にひどい惨状で、あれを目の前にしたら心が一切シャットアウトしたみたいに閉じてしまいました。
 そのあと、3万冊のノートと3万本の鉛筆を4つの小学校に届けに回ったんですが、気仙沼のある小学校に行った時、小学生たちが俺らを見て「音楽やってる人なんやろ?何か歌ってよ」って言って来たんです。でもその時、すごく怖さを感じたんですよね。日本中に名前が知られたアーティストさんなら、歌ではもちろん、握手したり言葉をかけたりだけでも勇気を与えられるんだろうけど、俺らみたいなどこの誰かもわからん奴がライブをしても無力なんじゃないかって思ってしまったんですよ。









ちょっとだけ、目線だけでも前を向いてほしいんだ。そうやって私は生徒たちに伝えて、どうにか生きてもらおうとしてますよ


ー いろいろ考えますよね。みんな思いつめて敏感にもなっているだろうし。

[康太]そうですね。俺らの歌が勇気を与えるんじゃなくて逆に傷つけてしまったらどうしようってむちゃくちゃ不安になって、どうにか歌う機会を逃れたいなって思ってたんです。そうしたら、そこの校長先生が俺らの様子を見てどうしたん?って話しかけて来てくれて。歌うのが怖くなりましたと言ったら、「大丈夫だよ。私はこの被災地で、音楽は人を勇気づける力を持っているんだなと本当に感じています。」と言ってくださったんです。今までにもギター1本で仮設住宅を回っていた無名の歌手がいて「大丈夫、大丈夫」って歌い続けて皆が癒されて涙する様子をずっと見てきたそうでした。そして「今君たちが落ち込んでいるのも何となくわかるんだ。でもね、下を向いている君たちに上を向いて歩こうなんて今は言えないけど、ちょっとだけ、目線だけでも前を向いてほしいんだ。そうやって私は生徒たちに伝えて、どうにか生きてもらおうとしてますよ」って言ってくださった時、これはもう歌おう、って思った。

[健太]本当に歌って良かったね。

[康太]俺らは何かしにいったつもりなのに、何もかも貰って帰って来たんですよ。お金や道具がこの世の中を発展させて来たと思うけど、そういうものでは動かせない何かを動かせる、それが音楽だなと思いました。そして俺らは人を癒す音楽を作りたい、って思ったんです。少しでも誰かの背中を押せるような。


ー 音楽ってすごいですよね。ただの言葉で言っても伝わらないことが、音楽にのせたら素直に相手の心に届いたり。なんなんでしょうね、音楽の力っていうのは。

[康太]自分に言い聞かせようと思って作った歌が、人の心にも響いたりするから不思議ですよね。自分の経験を書いたのに、全然会ったこともない人からの共感を生むことができたり。歌うことでみんなが笑顔になる瞬間を見ると、本当に嬉しくなります。



ー 笑顔で思い出したんですが、私がこの前被災地に行かせてもらって感じたのは、被災された方って前向きな人が多いなぁってことなんです。どういう風に被害を受けたかとか、意外とオープンに話されていて、何よりみんな明るくて。

[康太]わかる(笑)。気仙沼にピンポンっていう居酒屋があるんだけど、そこに行くとみんな飲みながら、「俺、新車を納車した日が3月11日でさ、新しい車流れちゃったのよ~」って震災の体験を笑い話にしてるんですよ。つらい過去の話も自分で前向きに明るく切り替えてるんですよね。もちろんみんながそうっていうわけではないと思いますが。

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健太 康太

健太 康太KENTA KOUTA

PROFILE

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福岡県出身、R&B祭2010グランプリ受賞の双子デュオ‼︎

当時はまだ2曲しか無かった自作曲のレパートリーを徐々に増やしながら、翌2011年に上京、2012 年から下北沢Cafe KICK で働きつつ、ライブを積み重ねながらオリジナル曲にさらに磨きをかけ、遂に完成した1st アルバム。

ボーカルデュオとしての実力もさることながら、誕生した時からすでにスタンダードナンバーのような輝きを放つ珠玉のメロディー、そして歌詞に込められた強く優しく、そして本気(魂)のメッセージを是非とも感じてください‼︎

This is “REAL” SOUL MUSIC!!

by 蔭山 浩美
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