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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 027
Dardenne brothers
June 03, 2015

r-lib | 東 紗友美 × ダルデンヌ 兄弟 連帯とは何か 映画『サンドラの週末』

GENRESArrow文化

連帯とは何か 映画『サンドラの週末』

 カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを2度も受賞している世界的巨匠ダルデンヌ兄弟。最新作『サンドラの週末』のために来日した際にお話を伺ってきました。工場で働く主人公の女性サンドラは、長期療養から復帰する直前に他の従業員へのボーナスと引き換えに解雇を言い渡されてしまいます。従業員同士の投票に向けて解雇の撤回を支持してくれるように説得してまわるサンドラですが、自分のボーナスと引き換えに彼女を復帰させるかどうか従業員の中でも意見が割れて・・・
 サンドラ役のオスカー女優マリオン・コティヤールは、この作品でもアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたという注目の映画です。

Reported by Sayumi Higashi



— 今日はよろしくお願いします。さっそくですが『サンドラの週末』を撮ることになったきっかけというのはどういうものだったんでしょうか?

リュック・ダルデンヌ:きっかけはフランスにあるプジョーの工場で起こった出来事です。ピエール・ブルデューという社会学者が監修をした本「世界の悲惨」に、その工場で働く労働者9人に聞き取りをした内容が書かれていました。その中の1人の労働者で長期間休んだり、仕事のペースが遅いなどパフォーマンスの悪い人がいたのですが、その人を解雇するために会社側は他の労働者たちの同意を取り付けでしまったんです。そして休暇明けには解雇するという状況に追い込んだのです。本人がなんとかその決断を覆そうとしても覆らなかった。結局は解雇されずに済んだのですが、別の部署に異動させられ給料が減ってしまいました。その話から、「ある週末に女性が解雇を避けるために同僚を訪ね歩く」という物語を思いつきました。この連帯の欠如に対して、解雇される労働者側から連帯を再構築しようとするプロセスに関する物語を作ろうと考えました。








ダルデンヌ兄弟に興奮する東さん(笑)



世界的な巨匠と一緒に!!

映画には観客の中で何かを動かす力を持っています



— 世の中的にも連帯をテーマにする必要性が高まってきたということでしょうか?

ジャン=ピエール・ダルデンヌ:最初はどうやってその物語を発展させていけばよいのかわからなかったのですが、長い時間をかけてストーリーができあがりました。そして経済危機が訪れた2008年に、この話をしなければとならないと思いました。物語を、さらに突き詰めて考えていかないといけないと思ったのです。いずれにしても、このストーリーを語ることは重要だと思っていましたが、経済危機がなかったら、この作品を真面目に扱ってもらえなかったかもしれません。映画を観終わったあとに、何か観客の中で動くものがあればいいなと思います。映画には観客の中で何かを動かす力を持っています。私たちは、映画を通して世界がどのような状態にあるのかを見せたいと思っています。



— 監督は以前「映画は世界の実践だ」と仰っていましたが、実践という言葉の意味について教えてください。

リュック・ダルデンヌ:私は希望を持っています。サンドラが辿るのは連帯を取り戻そうとするプロセスです。同僚たちに会いに行く中で、「あなたは連帯心があるからいい人」「ないから悪い人」と言うことはありません。彼女自身労働者で、どの同僚に対しても連帯の心を持っています。「あなたの気持ちはわかるけれど、ボーナスを諦められない」と同僚に言われたら、サンドラは「それはわかるわ」と答えます。サンドラはどの人も否定はしないのです。同僚みんながボーナスを諦めて社長と戦おうという状況になればよいのですが、そういう人はいませんし、その気持ちがあっても言い出せない。特にこうした小さな企業の中では、恐怖が支配し、みんな怯えています。月末にはお金が足りない、経営者が怖い、サンドラでなく自分がクビになるかもしれない。常に怖いのです。子供の学費を払えないかもしれない。車を買ったけれどもそのローンが払えないかもしれない。いつ何時貧困に陥るかわからないという恐怖に晒されています。だから経営者と正面切って戦えないのです。
 観客は連帯を求める女性への共感と同時に、こんなことを強いる社会は悲惨だという気持ちの両方を感じるのではないかと思います。あまり楽観的になりすぎるつもりはありませんし、映画で全てを解決できるとは思っていません。でも、このような映画を通じて観客のみなさんに考えるきっかけになってほしいと思います。映画を観たあとに、いろんな人と話し合って、連帯とは何か、何が一番大事なのか、私だったらサンドラと連帯できただろうか、できなかったとしたらなぜだろうか、そういったことを考えるきっかけになればと望んでいます。自問自答することが重要です。





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ダルデンヌ 兄弟

ダルデンヌ 兄弟Dardenne brothers

PROFILE

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1951年4月21日に兄のジャン=ピエールが、1954年3月10日に弟のリュックがリエージュ近郊の工業地帯で生まれた。ジャン=ピエールは舞台演出家を志してブリュッセルへ移り、兄弟は同地で出会ったアルマン・ガッティに影響を受けた。その後、原発で働いた資金で機材を購入。1974年以降、都市計画などの社会問題を映したドキュメンタリーを製作した。1978年、初監督作品となったドキュメンタリー『Le Chant du Rossignol』を発表。その後も様々なテーマでドキュメンタリーを製作した。 
1987年、ルネ・カリスキーの戯曲を基にした初の長編劇映画『Falsch (ファルシュ)』を発表。2作目の『'Je pense à vous (あなたを思う)』(1992年)は製作サイドの圧力により満足した完成は果たせなかった。1996年、束縛されない環境で製作した3作目の『イゴールの約束』を発表。第49回カンヌ国際映画祭の監督週間部門に出品されるなど、世界的な注目を集めた。
1999年、『ロゼッタ』で第52回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。主演の新人エミリー・ドゥケンヌにも同映画祭女優賞をもたらした。
2002年の『息子のまなざし』では常連俳優のオリヴィエ・グルメを初めて主演で起用し、第55回カンヌ国際映画祭男優賞をもたらした。
2005年には『ある子供』で2度目となるカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。同賞を2度受賞した5組目の監督となった。
さらに2008年の『ロルナの祈り』は第61回カンヌ国際映画祭で脚本賞、2011年の『少年と自転車』は第64回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞、映画祭史上初の5作品連続の主要部門受賞を達成した。
2014年、マリオン・コティヤールを起用した『サンドラの週末』が第67回カンヌ国際映画祭に出品された。主演のマリオン・コティヤールの演技は絶賛され、全米映画批評家協会賞主演女優賞やニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞などアメリカの批評家協会賞などの映画賞を多数受賞し、第87回アカデミー賞では主演女優賞にノミネートされた。

by 東 紗友美
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