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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 043
Kazushi Hosaka
February 12, 2019

r-lib | 松林うらら × 保坂和志 「小説的思考塾」  開講記念 特別インタビュー【後編】

花ちゃんの「キャウ!」は小説に輪郭を与えた

GENRESArrow文化

「小説的思考塾」 開講記念 特別インタビュー【後編】

2月23日から保坂さんの小説的思考塾が r-lib の主催(協賛 RYOZAN PARK)で始まります。第2回は3月9日。芸術分野の第一線で活躍している方や、次世代を担う若い人が多数来場の予定です。是非ご参加ください。

Reported by Urara Matsubayashi


編集長S: こういう話ができるって、良い関係にあるからだと思うんですけど、そうじゃない友達もたくさんいる中で、奉仕するって言葉が出てきてる人はもう奉仕してるし、そのうちするし、っていう感じが僕はします。でも、そうじゃない人たちは、そもそも奉仕っていう言葉は出てこないし、言われてもピンとこないと思うんです。奉仕するものがないといけないとか、好きになるものが必要っていう同調圧みたいなものが、奉仕っていう言葉をそもそも使おうと思わない人たちにも降りかかってる気がしますね、さっきも言いましたけど。奉仕っていう言葉が出てくる時点で奉仕の世界に生きてる人だから、その断絶は大きい印象ですね。

松林: 奉仕という言葉が出てこない人って、被害者的なキャラクターを好んだり、ネガティブで弱い人を応援したくなったりするんですかね?

保坂: まず自分が学校時代にいじめられたとかっていうのは禁句だよ。そんなことを武器にしないほうがいい。

松林: それを武器にして役者になったんですっていう人は、結構いる気がします。保坂さんが書かれてるように、自己救済のために小説家や役者になって表現したいっていう考え方自体が間違ってるということですよね?





編集長S: 僕はさっきの同調圧と関係あるかなって思ってます。好きなものを見つけないと駄目だっていうのが、自分の辛さは好きなものを見つけて乗り越えろっていう感じになって押し付けられると、無理矢理そういう方向に持っていきがちかなと。まぁそれは社会の問題かもしれないけど。苦しさの中に生きがいを見つけること自体は、間違ったことではないと思うけどな。変にそれでブランディングしなければ。

手近な承認欲求っていうのは、芸術をする孤独と正反対のもの


松林: SNSでの承認欲求にもつながるんじゃないですか?だから普及してると、私は思うんですけど。

保坂: 手近な承認欲求っていうのは、芸術をする孤独と正反対のものだよ。

松林: なるほど。私も学校生活の中で経験あるけど、どうしても群れからはじかれるという恐怖とか辛さは感じてしまいますよね。

保坂: そこはね、今の若い子たちの学校生活のことがよく分かんないんだよね。……いくつちがう?

松林: 25歳です。

保坂: 37歳違うわけ。あなたの親より僕は年上でしょ?一世代以上ズレてるから、教室の中がそんなに簡単に、いじめていじめられるみたいなことを、僕は知らないんだよね。もっとみんなおおらかだったから。ただ僕たちの側として大事なことは、おおらかに生きた世代の人達はおおらかなものを発信しないといけないってことなんだよね。世の中今、おおらかなイメージのない人が支配しようとしてるから。小説なんかでも。世の中におおらかなものはあるんだっていうことを、おおらかに生きた人たちは、ちゃんとおおらかさを出していかなきゃいけない。それは使命なんだよ。義務と使命は違うからね。僕の使命感はそっちなんだよ。





松林: たしかに保坂さんの文章を読んでいると、こんなふうに思って良いんだっていう、何かわからないけどおおらかさみたいなものを感じます。まさに『ハレルヤ』!っていう感じがして、読んでて涙したのかなって思います。

保坂: 自分のやってることが、使命感を自覚しなきゃいけないんだなと思ったのは割と最近で、年下の友達が「保坂さんを見てると、猫ってこんなに可愛がっても良いんだって思えた」って言ったから。猫を可愛がり過ぎると、この人馬鹿なんじゃないの?おかしいんじゃないの?って周りに言われると思うってことは、周りの言葉を先取りして、自分の心の中にそれがまずあるわけ。こんなにやったらまずいんじゃないかって思うのはさ、何がどうまずいのかって多分いろいろあるし、具体的にもあるんだけど、でも抽象的に歯止めをかけるようになってるわけね。

松林: ブレーキがかかっちゃってる。

保坂: そう。だからタバコは20本までで、酒もボトル換算半分までにしとかないとまずいんじゃないかっていうように、自分の愛する対象も、ここまでにしとかないとまずいんじゃないかって心が制御するようになってるんだよ。それを解いていいっていうのが、僕の態度であり、メッセージになってるわけ。

松林: 制御されてる、型に嵌ってるってわかってても、そこからはみ出すと怒られちゃうっていう、常識的に植え付けられてしまってる部分が多分あると思います。

保坂: こないだ同窓会があって、僕は小さい私立の中高一貫教育で、卒業生の半数くらいは母校愛があるってことになってるんだけど、僕が同窓生だってことを知ったら、もっと僕の本を買ってくれても良さそうなものじゃない?それがなんで買わないのか理由がわかったんだけど、僕は会社時代に適正検査で帰属意識が100点満点中の0点だったのね。だから同窓生たちが僕の本を買わない理由って、母校愛のある人は、僕が帰属意識が0点だってことが読んでわかっちゃうからなわけ(笑)。っていう話をそこに集まった同窓生たちに「俺、適正検査で0点だったから」って言ったら、「そんなことみんな知ってるよ!」って言われるほど、存在が帰属意識0点なんだよね(笑)。だからホントに先生に怒られた。保坂さんは何がそんなに怒られるんでしょうって言われるけど、存在が帰属意識0点だから、先生としては凄く迷惑なんだよね。何がいけないわけじゃなくて、全体がいけないんだ。

松林: 全体、それは校則をやぶったとかそういうことでは……

保坂: 具体的には破んなくても、まぁ破ってたんだけど、校則破るなんて細かいことなんだよ。なんかこう、いるだけで騒がしい。みんなの騒ぎたい気持ちを煽るみたいな。あいつがいるとホントに困るんだっていう。

松林: (笑)。お時間が来てしまいましたので、そろそろこの辺で。今日は貴重なお時間ありがとうございました。

(終わり)





【お知らせ】
保坂和志 小説的思考塾 vol.2


【日時】3月9日(土)15時〜17時(16:30より質問タイム)

【場所】 RYOZAN  PARK巣鴨(グランド東邦ビル)地下  (巣鴨駅南口から徒歩3分 )
 〒170-0002 東京都豊島区巣鴨1-9-1 

【料金】 2,500円

【主催】r-libサロン
【協賛】RYOZAN  PARK

【予約フォーム】
https://www.quartet-online.net/ticket/hosakarlib

【問い合わせ】
hosakakazushi.official@gmail.com








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保坂和志

保坂和志Kazushi Hosaka

PROFILE

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保坂和志(ほさかかずし)
1956年 山梨県生まれ。鎌倉育ち。
早稲田大学政治経済学部卒業。

1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2013年『未明の闘争』で野間文芸賞、2018年、『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。その他の著作に『カンバセイション・ピース』『小説の自由』『書きあぐねている人のための小説入門』『朝露通信』『猫の散歩道』ほか。

【HP】http://www.k-hosaka.com/
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by 松林うらら
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